1:愛                    

 

 

 

俺は、もう人を愛することはないと。

それは、きっと俺の心がそんな温かいものじゃなく、もっと冷たいもので支配されているからだと。

そう思っていた。

 

少なくとも、コイツに逢うまでは。

 

 

「…真山さん」

「何だよ?」

眠りに着く前の、ほんの一瞬。

同じ布団で寝ようとしていたはずの柴田が、俺の顔を覗き込んで突然尋ねた。

 

「真山さん、私のこと愛してますか?」

 

一気に、目が覚める。

いきなり、何てこと言い出すんだ。コイツは。

 

「何言ってんの、お前?」

柴田の顔を見ると、いつも以上に真剣だ。どうやらふざけているようではないようだ。

…となると尚更タチが悪いじゃん。

 

「何でそんなこと聞くの?」

質問を変えてみた。

「先日、本で読んだんですけど、『男の人は愛がなくてもセックスができる』って。…それって、本当なんですか?」

まーた、余計な知識入れてきやがって…

俺はため息を一つついた。

「…真山さん?」

柴田が、泣きそうな目で俺を見つめている。

 

「まぁ、男ってヤツは悲しい生き物だからね。子孫を残すために愛のないセックスが出来る様に創られてるんでしょ?」

「…本にも、そのように書いてありました」

やっぱり、と柴田がうなだれた。

「でもさ、それは一般論でしょ?」

「え?じゃあ真山さんは愛のないセックス、出来ないんですか?」

柴田が目を輝かせて再び俺の顔を覗き込む。

「いや?俺も男だもん。愛のないセックス、ガンガン出来ちゃうよ」

「…そうですか…」

柴田の顔が一気に暗くなる。

ホント、いつもの無表情はどこに行ったのと思うほどこういったときの柴田の表情は正直だ。

 

「…お前さ、もしかしてさっきのも『愛のないセックス』だと思ってる?」

「はい。真山さんってやっぱりそんな方だったんですね…」

「勝手に決めるんじゃないよ」

軽く柴田のデコを叩く。

そしてそのまま、柴田の頭を撫でた。

「えっと、真山さん?」

 

「お前さぁ、愛のないセックスがあんな気持ちいいわけないでしょ?」

「え…?」

「お前はしたことないだろうからさ、わかんないと思うけど。

愛のないセックスなんて目的が性欲だけだから、気持ちいいのなんてホンの一瞬よ?」

「そうなんですか?」

「そ。お前は何?性欲だけで俺とセックスしてんの?」

「いいえ。そうじゃなくって…」

「そうじゃなくって?」

 

「なんていうか、真山さんともっと感じたいというか、もっと繋がっていたいっていうか…」

「気持ちいいのはイク時だけ?」

柴田がふるふると頭を振る。

「真山さんに触られている間、ずっときもち、いい…です。」

「ね?」

 

「そうかー。気持ちいいのは愛があるからかー」

柴田がうんうんと頷いている。

「そ。あと俺の黄金のテクニックね。忘れんなよ」

「えー?真山さん本当に上手いんですか〜?」

「何だ?その疑りの目は」

「だって、私真山さんとしかしたことないからわからないんですもん」

「…じゃあ何?他の男とヤってみる?」

「遠慮しときます…」

「お、いい心がけだね」

「だって、他の人とやっても気持ちよくないんでしょう?」

「そ。愛がないとねー。やっぱり」

 

別に誰としようが、気持ちといううより相性の問題だから、

相手のことをどう思っていようとセックスの時の気持ちよさは変わらないのだと俺は思うけど、

一応夢見るコイツのためにそう言っておこうか。

それにやっぱりコイツとのセックスが一番いいと思うから。

 

 

「えー、まとめますと、『真山さんは私のこと愛している』でいいんでしょうか?」

ばしっ

「勝手に変なまとめすんなよ!誰がそんなこと…」

「え?だって……あ!私、わかっちゃったんですけど」

「何が?」

「真山さん、照れてらっしゃるんでしょ?そうだ、照れてるんだ。かわいいー」

「照れてないよ!!」

「あ、赤くなったー。うふふー、真山さんわかりやすいですねー」

「ああ〜!!もううるさい!お前寝ろ!今すぐ寝ろ!3秒後に寝ろ!!のび太だ、のび太!!」

「うふふー。おやすみなさい。照れ屋の真山さーん」

「うるせぇ!早く寝ろ!永遠に寝かすぞ!!」

 

 

 

「愛してる」なんて、死んでも云わないけど。

俺が、抱く女はこれから先お前だけ。

お前を知ってしまったから、もう他の女は抱けない。

 

愛のあるセックスを知ってしまったから、な?