04:駅前

 

 

賑やかな駅前に似合わない、黒ずくめの男女が一組。

本人たちにその自覚はないようだが、背の高い男と時代遅れの服装の女はやけにその中で目立っていた。

二人は捜査を終えて、弐係に戻る途中。

柴田はいつものように調書を読みながら、真山はいつものように煙草を吸いながら歩いていた。

 

「柴田」

真山が声を掛ける。しかし、柴田にはその声は聞こえない。

「柴田、おい!」

もう一度、先程よりは大きな声で柴田に呼び掛けるが、聞こえていないようだ。

柴田は顔も上げない。

真山は、仕方がないと言う風に大きくため息をついて、柴田のマフラーを引っ張った。

急にマフラーを引っ張られ、柴田は苦しそうに呻いた。

「な・・・何するんですかぁ?」

目に涙を浮べた柴田は、後ろを振り返り真山に抗議をする。

「前、前」

真山は表情を変えず、顎で前を見るように柴田に言った。

「え?」

柴田が前を見ると、目の前に看板があった。

あと一歩踏み出したら顔面を強打していたであろう。

「ね?」

真山の声がして、それからマフラーが離された。

「ありがとうございます・・・」

柴田はもう一度振り返って、真山に頭を下げた。

「どういたしまして」

真山が棒読みで答えた。

「本読みながら歩いたらね、危ないよ?」

「はい・・・すみませんでした」

柴田が素直に調書を鞄の中にしまうと、真山が満足そうに頷いた。

 

改めて前を向くと、柴田がぶつかりそうになったのは、ピンク色をしたハートの形の看板だった。

「『2月14日はバレンタインデー』」

柴田がその看板に書かれた文字を読み上げた。

それから、真山のほうをちらりと見た。

「・・・何だよ」

真山が睨むように柴田を見返す。

「真山さん、欲しいですか?」

「何が」

「ですから、バレンタインのチョコレート」

柴田は少しドキドキしながら訊いた。

しかし、真山から返ってきた返事はそっけないものだった。

「いらねー」

「えー?どうしてですかぁー?」

「別に。なんとなく」

「なんですか、それ」

柴田は真山の返答に不服らしく、頬を膨らました。

 

真山は柴田のそんな様子を見て、いやな予感を感じた。

「何、お前?まさか俺にくれようとしてた?」

「何言ってるんですか?真山さんになんかあげませんよ」

「あっそ。あー、よかった」

「・・・なんですかその言い方。私からは貰いたくなかったみたいな・・・」

「その通りだよ。お前のチョコなんて欲しくないね」

「どうしてですか?」

「別にー。なんか呪いとかかかってそうで怖いもん」

「ひっどーい。バレンタインのチョコにのろいなんてかけませんよー!」

「どうだかね。手作りだった日にはもう最悪。味オンチのつくったチョコなんて絶対食べたくないね」

「味オンチって・・・まさか私のことですか?」

「なんだよ『まさか』って。自覚しろよ」

「真山さんだって普通の味覚してないじゃないですかー」

「お前にだけは言われたくないよ!」

「真山さんにだけは絶対チョコあげませんからね!!」

「あー、よかった。変なもん食わずにすんで」

「もう!真山さんのバカ!!」

完全に腹を立てた柴田がどすどすと音を立てて歩き出した。

真山は苦笑いしながらそれに続く。

 

 

突然ぴたりと柴田が歩みを止めた。

「・・・真山さん」

「んー?」

何事かと真山が面倒臭そうながらも答える。

「・・・どうしても駄目ですか?」

「何が」

「チョコレート。・・・そんなに受け取るのが嫌ですか?」

 

「何だよ、俺にそんなにあげたいの?」

からかうように真山が片眉を上げて言った。

 

「・・・はい」

小さな声で恥ずかしそうに柴田が応えた。

意外な柴田の反応に、真山は少し戸惑った。

「何で?」

「えーっと、何でだろ?・・・いつもお世話になってるお返し、ですかね」

「一応自覚はあったんだ。お世話になってるって」

「ありますよー。真山さんにはいつも感謝してます」

「どうだかね」

「本当ですよー!信じてください」

「・・・わかったよ」

真山はまるで子供をなだめるように柴田の頭をぽんぽんと叩いた。

 

優しい真山の笑顔を見て、柴田はぽつりと呟いた。

「でも、義理チョコじゃないですからね?」

「・・・わかってるよ」

「その・・・本命ってヤツです」

「うん」

「本当は、お礼とかじゃなくてただあげたいんです。真山さんに」

「へぇ」

「真山さんのこと考えながらチョコ選んだり、作ったり、ラッピングしたりしてみたいんですよ」

「そう」

「別にお返しとかいいですから。まずかったら食べなくっていいですから」

「・・・・・・」

「貰ってくれませんか?2月14日」

柴田のお願いに、真山はもう一度柴田の頭をぽんぽんと叩いた。

「・・・お袋さんに味見してもらえよ」

「え?」

「お前味オンチなんだから」

「・・・もらってくれるんですか?」

柴田の問いかけに、真山はわざとらしくため息をついた。

 

「しょうがないからね」

 

そう言い残し、真山はすたすたと先を歩いていってしまった。

多分、照れているのだろう真山の後ろ姿を見つめて、柴田は少し笑った。

 

「真山さーん、待ってくださいー」

柴田がとたとたと小走りで真山の後を追う。

「早く行くよー?もう定時過ぎてんじゃん」

「真山さんが好きなのはバナナととんかつでしたよねー?」

「・・・お願いだからさ、とんかつの間にチョコを挟むとか言うベタなゲテモノ調理法はやめてね?」

「あれ?なんでわかったんですかー?」

「・・・やっぱり・・・」

「大丈夫です!絶対美味しくしてみせますから!!」

「どうやったら、カツの間にチョコが挟んだモンが美味くなるの?」

「・・・それは、やっぱり・・・愛の力で?」

「・・・・」

「いたっ!もー、何で叩くんですかー」

「ん?あれじゃん。調子悪いテレビとか叩くと直るじゃん。あれと一緒かなーと思って」

「もー、テレビと一緒にしないで下さいー!!」

「電源どこー?柴田サーン!!」

「ありませんってばー!!」

 

 

 

2月14日。

甘い小さなお菓子にのせて

この想い、貴方に届きますように。