01:暁
「それでですね・・・犯人は、被害者の旦那さんだと思うんです」 真山の部屋、ベッドの上で、柴田は淡々と推理を真山に話している。 「・・・うん」 柴田の推理に真山は眠そうに相槌を打った。 「それで、明日事情を聞いて、自首していただこうと思うんですけど・・・」 真山はそれを聞きながら、うつぶせの体勢から仰向けに寝返を打った。 「真山さん・・・」 「・・・聞いてるよ」 真山は軽く目を瞑った。柴田はその動作を困ったように見つめる。
けれども、真山が眠くなってしまうのも仕方がない。 時間にして6時間、もうずっとこうしているのだ。
もうすぐ夜が明ける。 柴田は、自分が話すのに夢中で時間が経つのを忘れていた事に、ようやく気がついた。 「・・・続きは明日にしましょうか」 その声に真山は薄く目を開けて柴田を見た。 「明日じゃなくって、今日ね」 「・・・ですね。すみません、私つい時間を忘れてしまって・・・」 柴田がすまなそうに呟いた。 真山は柴田の方に顔を傾け、口の端を少しだけ上げた。 「・・・もう慣れたよ」 その笑顔に柴田は「すみません」ともう一度呟いた。
真山の手が柴田の方に伸びて来る。 それから、ゆっくりと柴田の頭を撫でた。 「お前・・・眠くないの?」 「はい。なんだか目が冴える一方で」 「ふーん・・・さすが柴田」 そう言って真山はもう一度ふっと笑うと、その腕をぱたりとベッドの上に落す。
「真山さん、お休みになって下さい。朝になったら起こしますから」 「・・・ん」 短い返事をして、真山は静かに目を閉じた。 余程眠かったのだろう。すぐに寝息が聞こえてくる。
柴田はその寝顔をしばらく見つめた。 真山の寝顔はいつも穏やかで優しい。 「見つめる」というよりは「見とれる」といった方が正解だろう。 飽きもせずに柴田は真山の寝顔を見つめて、そして優しく頭を撫でた。 腕にかかる真山の寝息にとても優しい気持ちになる。
柴田は、しばらくそうしていたが、やがてゆっくりと起き上がった。 真山を起こさないように、するりとベッドから出る。 そして、窓際に座った。
柴田は、空を見るのが好きだった。 青空も、夕焼けも、星空も。雲も、太陽も、星も、月も。 いつも自分を見守ってくれる空が大好きで、よく眺めていた。
少し冷たい窓枠に手を添える。 さすがに窓を開けると寒くて真山が起きてしまうだろう。 ガラス越しに見る空には、微かに星が見えた。
「・・・あ、オリオン座」 誰にともなく呟く。 冬の夜空で一際輝く主役も、もう夜明け近い今となっては低くてビルに埋もれそうだ。 「真山さんは星座なんて知らないんだろうなー」 ゆっくりとベッドの方を振り返る。 真山は気持ち良さそうに眠っていた。 「今度、真山さんに教えてあげよう」 柴田はそう言ってフフフと笑った。
あなたは、私に沢山のものを教えてくれたから。 人を愛する事も、失う寂しさも。 今度は私があなたに沢山教えてあげられるといい。 あなたのように大事な事は教えてあげれないけれど。 例えば、星の名前、花の名前。 それから、私がこんなにもあなたを想う気持ち。 つまらないことだと笑わずに、あなたはちゃんと聞いてくれるでしょうか。
私の推理を何時間も聞いてくれるあなた。 眠くても、私の方を心配してくれるあなた。 そんなあなたがとても好きです。
柴田はもう一度空を見た。 「あ・・・星が消えた」 もうすぐ、太陽が朝を連れてやってくる。 今日は晴れるといいな。 青い空のお陰で、真山さんの気持ちまですっきりしてくれればいい。
「ねぇー、柴田ぁー。天気もいいしさー、今日は直帰ね。捜査なんてやめよう、ね?」
真山のそんな声が聞こえた気がして、柴田はもう一度笑った。
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